蛍光寿命測定のデータ解析で陥りやすい罠 


 
事実上、この業界のスタンダードである浜松フォトニクス(株)製の測定/解析ソフト Photolumi ですが、データ処理には注意が必要です。マニュアルの指示に従っていけば、特別なスキルが無くとも綺麗な Decay のフィッティングが得られるのですが、大きな落とし穴があるのです。蛍光寿命測定(1) 2002.2.1 Afternoon】で紹介しました 200℃のデータを例にとりますと、下の通り一見して2次の指数項でフィッティングした方がいい結果が得られます。1次の指数項で合わせたグラフなどは、お世辞にもフィットしたとは言い難く、悲惨です。

[図1 2次のフィッティング

[図2 1次のフィッティング

 しかしながら、2次の項で合わせたということは、発光減衰曲線の中に2つの異なる速さ成分が存在することを意味し、単純な二酸化チタンの励起−発光メカニズムでは説明できません。

 これは有る意味グラフの見せ方の問題でもあるのですが、
(1) ソフト上で[Decay Sub.]のボタンを押してバックグラウンドの高さを何ポイントか差し引くと、下のように綺麗なフィッティングが可能となります。ただし、本データでは CHI が小さくなったものの Residual はやや多めになってしまいました(判断が難しい所です)。通常、Residual のふれ具合が中心より均等にふれていればデータの乗り具合が良いと判断されます。]
(2) また基準のレーザー光曲線(図中、緑色)についても、余分な波長域成分をカットしてやりますと、より綺麗な図となります。
(3) なお、急速に消光するように見える発光開始直後のコンマ数ナノ秒のデータは、大部分が表面散乱によるものなので、計算対象から除外しなければならないことは言うまでもありません。

[図3 1次のフィッティング(補正後)

 

 図1、2、3の各方法で得られた平均発光寿命<τ>は、同じデータを元にしたにも関わらずそれぞれ5.57ns、1.85ns、1.05ns、とバラバラになりました。計算対象とする Range をどこまで取るかも含めて考えると、説明に都合の良い結果を作ることも可能になってしまいます。

 従って他人の論文を読む時は、上記の裏事情も含めて自分なりに理解することが必要です。エラい先生がどこかで発表したりすると「酸化チタンの標準的な
平均発光寿命は2ns」といった値が一人歩きするのは、権威のなせる技です。測定した当事者は分かっているのですが。。。


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