ナノテクに挑む、中部新ものづくり、(3)界面制御
透明な牛乳も 他業種と手つなぎ新素材

                       (2004/4/15付 中日新聞)

 「界面活性剤を使えば、理論的には透明な牛乳を作ることもできます」。食品原料 メーカー、太陽化学(三重県四日市市)のナノファンクション事業部長、南部宏暢さ ん(44)はさらりと言った。
 同社は食品用の界面活性剤を製造しており、これまでに約800種類を開発した。 細胞膜を形成するレシチンを酵素で分解して「分子1個1個をコントロールする技 術」(南部さん)は、まさにナノテクだ。  牛乳が白いのは、天然の界面活性剤で細かく分解された脂肪分が光を反射するか ら。しかし「界面活性剤の能力を高めて可視光線をすべて通すほど脂肪分を微細にす れば、透明になる」と、南部さんは自社の技術力に自信を示す。  界面活性剤は、さまざまな食品に利用されている。缶コーヒーのミルクが固まらな いのは、界面活性剤が入っているため。各種ビタミンが含まれる飲料や食品もその一 例で、鉄分を溶かした飲料が発売された時は「消費者から『鉄の味がしない。本当に 入っているのか』と苦情を受けました」と苦笑する。鉄分が50ナノメートル以下の 微細な粒子になっているので、鉄の味は感じない。  同社が開発した界面活性剤は、意外なところでも活躍している。目を付けたのはト ヨタ自動車グループ。チョコレートの油分に砂糖を溶かすために太陽化学が開発した 界面活性剤が、トヨタの高級車の振動制御材に使われている。鉄やタングステンを含 んだ樹脂の粘り気を下げる効果があり、制御材を薄くすることに役立った。  トヨタグループとの協業は、ことしに入って新しい成果を生んだ。相手は豊田中央 研究所(愛知県長久手町)。ことし一月、共同で新素材「ナノポーラスシリカ(NP S)」の量産に成功し、食品の染色などへの実用化が検討されている。  NPSは二酸化ケイ素(シリカ)の分子がハチの巣状に連なった構造。ナノサイズ の六角形の穴が開いており、穴の中には酵素や色素などを取り込むことができる。南 部さんが手にしたのは緑色の粉末。ナノの穴には葉緑素が詰まっている。  葉緑素は葉っぱの中では天然の“殻”に守られているが、外に取り出してむき出し の状態にすると光に弱い。NPSはナノテクが生んだ人工の殻だ。  NPSは豊田中央研究所が15年ほど前に発見したが、量産化のめどが立たず「お 蔵入りしていた」(南部さん)という。太陽化学は、界面活性剤を「鋳型」にして二 酸化ケイ素を焼成する製造方法を開発、焼き飛ばされた活性剤の跡は見事に六角形の 穴となった。穴の大きさは炭素原子2個分(0.3ナノメートル)の単位で調節する ことができる。  葉緑素を取り込んだ緑色粉末の利用法は、食品の染色にとどまらない。南部さんは 太陽電池への応用を考えている。シリコン製の太陽電池は紫外線に近い光しか吸収で きないため、曇りや雨の日は光の大部分が大気に反射されて発電効率が落ちてしま う。しかし葉緑素は、波長の長い光までエネルギーに変えるため、より効率的な発電 が可能となる。「悪天候でも安定的に発電できる太陽電池を作りたい」。南部さんの 夢は広がる。  界面活性剤 水になじみやすい親水基と、油になじみやすい親油基からできてお り、水と油の仲を取り持つ=イメージ図。一分子の長さは数ナノメートル程度。牛乳 は天然の界面活性剤が脂肪分を取り囲み、微細な分子状にして水分と混ざり合う「乳 化作用」が働いている。このほか繊維に水をなじませる「浸透作用」や汚れを落とす 「分散作用」があり、洗剤、食品、化粧品、医薬品などに使われている。

プレスリリース: http://www.taiyokagaku.com/jp/s_together/news/news34.html

         


鐘化、04年度の太陽電池生産量を1.5倍に引き上げ
                       (2004/4/13付 日刊工業新聞)

2004/4/13,日刊工業新聞 鐘淵化学工業は04年度の太陽電池生産量を引き上げる。アモルファス(非結晶)シ リコン型を中心に、03年度比で約1・5倍の年間20メガワットの生産体制を整え る。建材一体型の太陽電池など製品数の多さをアピールして、国内の売り上げ増加に つなげる。電力需要の高い独やタイなど海外市場攻略も目指す。また、変換効率を アップした新型太陽電池の開発を加速するなど研究面も強化する考えだ。 鐘淵化学の太陽電池は非結晶型が中心。薄膜多結晶シリコンを積層することで光を電 気に変換する効率を高くした、ハイブリッド型電池も扱っている。03年度の太陽電 池の生産量実績は13メガワット強だったが、04年度は主力品に加え、デザイン性 を重視したシースルー型製品の販促にも取り組むことで、年間20メガワットの達成 を目指す。 中でも非結晶タイプについては独とタイ向けの輸出を強化する。独は通常電力と併用 可能な系統連系式、タイは独立電源用として売り込む。変換効率の高いハイブリッド は小面積屋根でも設置が可能なことから、主に屋根材と一体化した製品として販売促 進を狙う。 現在、太陽電池は100%出資子会社のカネカソーラーテック(兵庫県豊岡市)が生 産、販売を本体が担当している。最近はクリーンエネルギーへの関心もあり太陽電池 需要が国内外で増えているため、販売と開発の両面に力を入れる。 また、後処理工程の合理化も進めることで事業全体の収益強化も図りたい考えだ。


松下退職のシニア技術者
次世代電池に第2の人生、室園氏・松本氏(かんさい21)

室園氏 家庭への普及を加速              (2004/4/6付 大阪かんさい21)
松本氏 自動車向けを開発


 大手電池メーカーがひしめく関西で、ベンチャー企業2社が、次世代電池開発に挑
んでいる。いずれも社長は五十代後半の技術者で松下電器産業グループのOBだ。定
年後の安定した生活を捨て、環境問題対策に貢献する新型電池開発に第二の人生をか
けて丸4年。その間、古巣はリストラで復活。複雑な思いを抱えながら、シニア技術
者らの意地が実を結びつつある。
 大阪府枚方市のJR津田駅から車で十分足らずの丘の上、三セクの研究施設、イオ
ン工学センター内に本社を置くクリーンベンチャー21は全国でも珍しい太陽電池専
業の開発ベンチャー。社員は約二十人。「二度目の人生を選んでよかった」。社長の
室園幹夫さん(57)の表情は明るい。
 室園さんが開発しているのは、従来は板状だった素材のシリコンを球状にした「球
状シリコン太陽電池」。発電効率を変えずに価格を現在の半分以下に下げ、家庭への
普及を加速させる考えだ。2001年五月の設立後、東京大学や立命館大、日新電機
などの協力で、「来年度中に試作品を出荷するメドが付いた」。
 総勢三万人の松下グループの技術者で、定年退職後に起業して名を上げた例はあま
りない。多くの人が現役時代にそれなりの達成感を感じたり、独自の福祉年金制度な
ど退職後の会社の支援で安定した熟年生活を楽しんでいるからだ。
 しかも関西は電池大手の集積地。携帯電話などに使うリチウムイオン電池は三洋電
機が世界1位。太陽電池はシャープと京セラ、三洋の3社で世界の生産量の4割以上
を占める。自動車用鉛蓄電池では一日付で経営統合したYUASAと日本電池が世界
2位。大手が強く、基礎技術開発に時間がかかり投資も重い。ベンチャーに不向きな
分野だ。
 だが室園さんは「やり残したことがあった」。松下はシャープ同様、1960年ご
ろから太陽電池の開発を始め、発電効率が最も高いカドミウムの利用で先行した。と
ころが太陽電池の技術部長だった90年代後半、有害物質への規制が強まり、会社は
99年、「有害なカドミウムでは事業化できない」と決めた。
 太陽電池への思いは断ち切れなかった。大学教授や企業経営者との議論の中で、取
引先だった米社が断念した球状シリコン方式を思い出した。失敗の原因を追及し、
「行ける」と確信したが、社内で再度、事業化を提案できる状況ではなかった。「自
分でヤルしかない」。2000年四月に五十三歳で定年扱いで退社したのは、同年六
月に就任した中村邦夫社長(64)の改革が始まる直前だった。
 室園さんより1カ月早く松下を定年退職したのが松本功さん(58)。ハイブリッ
ド自動車(HEV)に使う次世代のニッケル水素電池の開発会社、M&Gエコバッテ
リー研究所の社長だ。今年十月をメドに、コストが従来より20%安い基板を開発す
る計画で、「国内だけでなく韓国や中国の電池メーカーからも照会が相次いでいる」
という。
 松本さんは71年から6年間、当時の通産省の電気自動車開発プロジェクトに参
加。83年に子会社の松下電池工業に移り、現在のニッケル水素電池を支える素材技
術を開発した後、89年から電気自動車用の電池開発を担当したが、松本さんの主張
は退けられた経緯がある。
 ハイブリッド車用バッテリーの課題は熟知している。普及加速には、材料から変え
なくてはダメだと起業を決意した。京大、大阪府大や東北大など旧知の研究者だけで
なく、中西金属工業、荒川化学工業、田中化学研究所など材料メーカーとの提携で、
新素材の開発にメドを付けた。
 ライバルメーカーのOBも関心を寄せ始めた。クリーンベンチャー21には、84
年にシャープで太陽電池の開発を始め、京セラでも太陽電池事業を立ち上げた京セラ
元監査役の木村健次郎さん(74)が出資。M&Gには、松下OBのほか三洋やYU
ASAの出身者が集まっている。
 室園さんにとって、人脈や研究開発の管理手法などは松下時代の蓄積。松本さんに
とって松下は、開発した電池材料の重要な顧客候補でもある。
 2001年からの早期退職優遇制で、二人の社長と同年代の技術者を含む1万3千
人の社員が松下を去った。かつての部下たちも定年退職を控えるが、福祉年金の減額
など環境は厳しい。松下での経験を生かそうと、OBらが非営利組織(NPO)をつ
くる動きも出始めた。シニア世代の起業意欲が高まるか。2社の成否が注目される。