A low-cost, high-efficiency solar cell based on
dye-sensitized colloidal TiO2 films
Brain O'Regan & Michael Graetzel
Nature, 353(24) 737 (1991).
「色素増感されたコロイド状酸化チタン膜からなるローコスト高効率太陽電池」
光電気化学セルによる太陽エネルギー変換は徹底的な調査がなされてきた。色素増感型セルは光吸収の機能を電荷移動の機能と分けている点で通常の半導体デバイスとは異なる。TiO2 のような n-型材料の場合は、光子が色素に吸収された時に半導体の伝導帯へ電子の注入が起きて電流が発生する(Fig. 1)。回路を形成するためには色素は溶液中で酸化還元化学種から電子の移動を受けて再生され、更に(酸化還元化学種は)対極で還元されなければならない。単色化された電流収率は
ηi(λ)= LHE(λ)×φinj×ηe (1)
ここで LHE(光収量効率)は色素に吸収される入射フォトンの関数、φinj は電荷注入の量子収率、ηe は back contact における注入電子の補足率で、所定の波長における入射光束に対しての測定電流の割合を表している。電池によって発生する Fig. 1 の光起電圧ΔV は、光照射下における半導体のフェルミレベルと電解質中における酸化還元対のネルンスト電位間の差に相当する。
エネルギー変換において色素増感された光電気化学セルを用いるという試みはこれまでなされてきたが、そのようなデバイスの効率は極端に低く、実際的な応用からはほど遠いものがあった。一つの理由は光収量が低いことである。平滑な表面上では増感材の単分子層は 1% 以下の入射単色光しか吸収できない。一般に色素を多層化することでより多くの光を取り込む試みというのはうまくいっていない。残る選択肢は半導体表面の粗さを高くして、より多くの色素分子が表面に直接吸着できるようにすると同時に酸化還元電解質と直接接触できるようにすることである。Matsumura らと Alonso らは焼結した ZnO 電極を用いてローズベンガルとそれに関連した色素によって増感効率を高めた。Willing, Parkinson と 同僚らは SnS2 の色素増感について、高い量子収率を報告している。しかしながらそれらの系では太陽光から電気への変換効率はまだ 1% 以下にとどまっている。さらに色素が不安定なため、実際に用いるには厳しいという問題がある。ナノサイズの TiO2 粒子からなる半導体膜を新しく開発した電荷移動色素と共に用いることで、我々は太陽電池の効率と安定性を向上させた。
高表面積 TiO2 膜は、導電ガラス板上に堆積させた。Fig. 2 にコロイドの透過電子顕微鏡写真を示す。粒子間の電気的接触は 450℃で短時間焼成することで行った。膜状でできた粒子と空孔のサイズはコロイド溶液中の粒子サイズによって制御される。これらのパラメータは酸化還元電解質の拡散が容易になるよう、空孔サイズを維持しながら効率的な光収量を得るように最適化した。平均サイズ 15 nm の粒子から成る厚さ 10μm の膜は全太陽光に至るまで直線的な光電流応答を示し、すみずみまで使用される。立方最密充填の 15 nm サイズの球が 10μm 厚の層になることによって、表面積は 2,000 倍に増加する。
Fig. 3 にこのようなナノ構造を持つ TiO2 膜について得られた吸収スペクトルを示す。そのままの膜は無色透明で、紫外領域にアナターゼの吸収端(バンドギャップ 3.2 eV)を示す。3 量体ルテニウム錯体 RuL2(μ-(CN)Ru(CN)L2')2, 1, を、ここで L は 2,2' ビピリジン-4,4'-ジカルボン酸で L' は 2,2' ビピリジンであるが、単分子層で析出させることで膜の色調は深い褐色をおびた赤色になる。吸収端は 750 nm へシフトし、550 nm 以下の全可視光領域では光収量効率はほぼ 100% である。AM 1.5 の太陽放射 とこの吸収帯のスペクトルを重ね合わせると、入射太陽エネルギーの 46% は色素被覆膜により補足されていることが分かる(AM = 1/sinα、αは地球表面における太陽光線の入射角)。
導電ガラス支持体による光吸収を補正した 478 nm での膜の光学密度は 2.45 であった。1(e478 = 1.88×107 cm2 mol-1)の消散係数で割ると色素の表面濃度が得られ、Γ= 1.3×10-7 mol cm-2 が得られる。各色素分子が面積 1 nm2 を占めるとすると、幾何表面積 1 cm2 における内部表面積は 780 cm2 となる。従って粗さ係数は 780 となり、推算値 2000 よりは小さかった。この差は TiO2 粒子間のネッキングに起因する。加えて 1 のサイズが大きいため非常に小さな空孔に立ち入ることができず、見かけの表面積が減少したことも挙げられる。
Fig. 3 にまた色素被覆 TiO2 膜について得られた光電流アクションスペクトルを示す。吸収スペクトルと非常に良く一致しており、電流は 1 から TiO2 の伝導帯への電子注入によるものだということを示している。520 nm での光電流収率はヨウ化物イオン/三ヨウ化物イオン酸化還元電解質の対イオンに依存し、テトラプロピルアンモニウム から Li+ にすることで 68% から 84% まで増加することが分かった。導電性ガラスによる光吸収を補正後、収率はそれぞれ 80% と 97% になった。このことは、適切な電荷移動色素と接合した状態で用いられるナノ構造 TiO2 膜が定量的に可視光光子から電流へ変換できることを示している。
Fig. 4 に AM1.5 の疑似太陽光照射下において薄膜セルで得られた電流−電位特性を示す。1/10 光もしくは Full 太陽光における変換効率はそれぞれ 7.9% 及び 7.12% で、フィルファクター(セルの最大出力点÷[短絡電流×開放起電圧])は 0.76 及び 0.685 であった。同様の値が実際の太陽光直下で得られた(測定は6月上旬の午後研究所の屋上で行った)。拡散太陽光下では効率は 12% まで増加したが、そのような条件下ではセル特性が通常のシリコンデバイスよりも優れていることを示している。これは直射太陽光よりも拡散太陽光のスペクトル分布が色素−被覆 TiO2 膜の吸収スペクトルとより好ましく重なり合ったためである。セルのフィルファクターは非常に低い光強度(< 5Wm-2)でも 0.7 以上のままであった。これらの条件下で、通常の光電池はもっと小さなフィルファクター(< 5)を持つ。これは半導体における光変換で通常出くわす、再結合といった損失の機構が最小化されていることを示す。この結論は我々の欠陥を生じさせるような不規則な膜構造を考えると、驚きに思われるかもしれない。しかしながら色素増感デバイスの半導体の役割は、単に注入された大多数の電荷キャリアを導くに過ぎない。光変換プロセス中に含まれる少数キャリアというものは存在しない。そのため、格子欠陥に起因した表面とバルクの再結合ロスは、通常の光電池には見られるが、今回のようなデバイスには観察されない。
1 を担持した TiO2 薄膜に可視光(λ>400 nm)を 2 ヶ月照射して、長時間のセル特性の安定性を試験した。光電流の変化はこの期間 10% 以下であった。この間 62,000 C cm-2 の電荷がデバイスを流れたが、増感材に対するターンオーバー数では 5×106 に相当する。これはもし少しでも色素の劣化が起きていれば量子収率(φsec)は 2×10-8 以下であることを意味する。φdec = kdec/Σk で、励起状態の分解に対する速度定数 kdec s-1 は、少なくとも全チャンネルの色素の不活性化に対する速度定数の総和 Σk よりも 10-8 倍小さくなければならない。電荷の注入が優勢なチャンネルであるため、この総和は実際には電荷注入に対する速度定数に等しく、1 の場合は 1012 s-1 を越える。そのため kdec の上限は 2×104 s-1 となり、これはこのクラスの遷移金属錯体の知られている光物性物理学に一致する。1 のような色素では非常に速い電子注入が観察され、化学的に高い安定性を有していることから、これらの化合物が実用的な開発に向けて非常に魅力的であることを表している。